「降ってるな、雪」 「……そうだね」 駅前のとある喫茶店、その店内の、窓際の席。 一組の少年と少女が、隣り合わせに座って外の景色を眺めていた。 寒空の下、身を縮こませながら、大勢の人がせかせかとすれ違ってゆく。 そして人々の間には、空からの白い贈り物がはらはらと舞っていた。 比較的暖かいこの街ではあまり積もることのない、けれどこうして毎年降る雪は、ふわりふわりと儚げに宙を踊る。 「……見てるだけなら、意外と綺麗なんだけどね」 コト、とカップをテーブルに置いて、窓の外を見たまま少女がぽつりとそう言った。 「でも、実際に外に出るとやっぱり寒いし、雪は冷たい。降ってるだけなら優しそうに見えるのに」 少女の独り言に、隣の少年はホットコーヒーを飲みながら黙って耳を傾けている。 それを分かっているのかいないのか、澄んだ声でそのまま呟きを漏らす少女。 「雪の捉え方って人それぞれ違うよね。ロマンチックに思う人もいるだろうし、生死に関わる大問題な人もいるだろうし。私にとっては冷たい印象あったけど、あたたかい印象を受ける人だってきっと結構いる」 街を歩く人々の息は、白い。 対して、店内でカップから僅かに立ち上る湯気も、白い。 雪のひとひらひとひらも、白い。 「その時その時で違ったりもするよね。わくわくする時もあるし、切ないような物寂しいような気持ちになる時もある。多分、置かれた環境とかも関係してるんだろうけど。なんかさ、そういうの、面白いって思うんだ」 「確かに、面白いかもな」 黙っていた少年が、空になったカップをテーブルに置き、ようやく口を開いた。 「俺もさっきまで、冷たくて面倒としか思ってなかったけど。お前の話してるの聞いて、あったかいようにも思えてきた」 言って、少しだけ笑う少年。 その言葉を聞いた少女の方は、喜ぶような怒るような複雑な顔をした。 「……そういうことじゃなくて」 「いや、いいんだよ、これで。一人で過ごすよりも二人でこうやって過ごしてる方が、落ち着く環境だからな、俺には」 「…………」 何か言おうとしたが言葉が浮かばなかったらしい少女は、口をつぐんでそっぽを向いた。 そのまま、また外の景色に目をやる。 「………まぁ、それならそれで、いいけどさ」 その拗ねたような口調に、少年は何も言わずに苦笑した。 二人のガラス越しに、人の心を映しつつ、雪は静かに舞い続けている。 *
by fubuki-snow
| 2008-12-28 16:07
| SS
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