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by fubuki-snow
| 2013-01-12 11:34
| (説明とか報告とか)
「桜って、春だけしか注目されないよね」 屋上から校庭を見下ろしながら、少女がぽつりとそう呟いた。 頭上に広がる空はくすんだ蒼。雲が薄くかかっていて、日差しはぼんやりと肌に優しい。 そんな空を背負って、ブレザー姿の一人の少女が屋上に立っていた。 フェンスに手をかけ、眩しそうな表情で校庭を───いや、校庭に植えられた一本の桜の木を見下ろしている。 校庭の桜はすでに花見の時期を過ぎたようで、淡いピンク色から緑色に移り変わってきているのが遠目にも窺える。 「木そのものは一年中存在してるはずなのに、花が咲く時以外は見向きもされない。人間も自分勝手だよね。華やかさには注目するのに、地味になった途端放置だよ。葉桜だって、十分綺麗なのに」 少女は澄んだ声で、ただの独り言にも誰かに聞かせているようにもとれる言葉を紡ぎ続ける。 「……でもまあ、一年に一回でも注目されるんなら、それでも十分幸せか。だとしたらこれで丁度いいのかな。……あれ、そう考えたら、逆に羨ましいかもね」 少しばかり風が吹いて、肩まで伸びた少女の黒髪をふわりと揺らした。 校庭の桜の木も、さわさわと風に揺られて花弁を落とした、かもしれない。 「いつもは地味でいるのに、春のほんの一瞬だけみんなを虜にするわけでしょ。いいご身分だよね。春だけ華やかになって、人間を見返してる感じ。ちょっと悔しい」 「……じゃあお前も、桜みたいに他の奴らを見返したいのか?」 唐突に、少女の語りに少年の声が割り込んだ。 少女は校庭を見下ろしていた顔を上げて、自然な動作で屋上を振り返る。少女と同じく制服を着た一人の少年が、何食わぬ顔で少女の隣に立っていた。 少しだけ考えるような間をとってから、先程までと変わらない調子で言葉を返す。 「……そこまでは言わないけど。桜みたいに目立つ花じゃなくたって、綺麗な花は沢山あるから。そういう目立たない花の方に憧れるかな、私は」 「…………」 少年は少し黙ったが、ふと、何かを思い出したようにポケットに手を突っ込んだ。 「お前、手、出せ」 「……え? なんで」 「いいから」 言われた少女が怪訝そうに差し出した手に、少年は取り出したものをそっと乗せた。 ───薄くて小さな、一枚の桜の花びら。 「こうやって花びらだけ見ると、地味なんだよな、桜も。でも綺麗だろ。そんなもんだぞ」 「……そんなもんって」 「派手に見えても、よく見ると意外とささやかだってことだ」 「…………」 手のひらに乗せられた花びらをしばらく見つめていたが、やがて小さく息をつくと、少女はまた視線を校庭に戻した。 目を細めて眺める、葉桜。 「……まあ、綺麗なことに変わりはないよね」 「まあな」 二人で屋上から見た桜は、何だかとても、儚かった。 * #
by fubuki-snow
| 2010-04-30 23:25
| SS
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