「……鳥ってさ、眺めてるとなんか、羨ましいって思うんだよね」 そこはとある学校の、屋上。 吸い込まれそうな程広い、くすんだ水色をした秋晴れの空を見上げながら、少女が一人、たたずんでいる。 彼女は空に向かい、語る。 「だって、飛べるじゃん。自分で好き勝手に、風に乗って、自由に空を移動出来るんだよ?」 遥か上空では、トンビと思しき鳥がはばたく事無く、風に乗って優雅に飛んでいる。 「人間も確かに、自分で好き勝手に自由に移動は出来るけど、地面の上だけでしょ? 飛行機とかで空飛べても、自由にって訳じゃないし。やっぱり地面の上でしか、自由には行動出来ないじゃん」 「……でもそれは、他の動物にも言える事だろ?」 少し低めの声が、少女の澄んだ声で紡がれる独り言を断ち切った。 少女は声のした方向を振り返る。 いつからいたのか、フェンスに一人の少年が寄り掛かっていた。 しかしその事に驚く様子もなく、少女は応える。 「確かにそうなんだけど。だからって飛びたいとかは思わないでしょ? その点、人間って損だよね。他の動物より賢くて色んな事考えられて、その結果、叶えられない願望を抱いたりする。そして叶わないと知って、絶望する」 「……それ、今のお前の気持ちか?」 「うーん、どうなんだろうね。私は鳥みたいに飛びたいって思うけど、飛べないってちゃんと分かってるし。絶望はしてないよ、多分」 「じゃ、なんで其処にいるんだよ」 少年は怒ったように、フェンス越しに少女を軽く睨む。 ……そう、少女は、フェンスの向こう側にいた。屋上の一番端に。 「さあ、なんでだろうね。……不可能だって分かってるのに望みを捨てきれないから、かな」 「其処から飛べるとでも?」 「空は飛べないよ。でも、飛べたっていう感覚なら、少しは味わえるかもね。まぁ偽りなんだけど。味わい終わった頃にはもう死んでるだろうし」 少女は、屋上の端から下を覗き込む。 下からの風で、肩までの黒髪が舞い上がる。 「でも、やろうとすると結構怖いね、これ」 「じゃあ、やめればいいだろ」 「んー…。せっかくフェンス越えてここまで来たのに?」 「また来て、また悩めばいいさ。別に今じゃなくたっていいだろ、死ぬのは。……つーか、俺がいない時にしてくれ」 「………、分かったよ……」 少女はフェンスを乗り越え、華麗にこちら側に着地した。 「なんでいつも、私が飛び降りようとする時にいるの、君」 「死んで欲しくないから」 「なんで?」 「お前が好きだから」 「…………意味分かんない……」 *
by fubuki-snow
| 2007-10-09 02:35
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