早く起きてしまったので、折角だからと彼の寝顔を少し観察してみることにした。 男の子にしては長い髪は、カーテンの隙間から差し込む光を反射しつつ、思わず触りたくなるほどの艶やかさを持って彼の顔を覆っている。 目蓋は閉じられていて、普段は眼鏡に隠されている睫毛の長さがよく分かる。これで手を入れていないと言うのだから、私としては羨ましい限りだ。 髪に半分ほど覆われた頬は、日焼けなどしていないかのように綺麗で───しかしほどよく赤みが差していて健康そうだ。そっと指でつついてみると、柔らかい。いつも思うのだが、男のくせにこんなに肌がぷにぷにしているのは反則だと思う。 僅かに開いた口元からは白い歯が覗いていて、すぅ……と可愛らしい寝息が漏れている。ふっくらとした唇は潤っているらしく鮮やかな桃色で、それはまるで誘っているかのような──── 「……うぅん……」 ───至近距離で小さな呻き声がして、随分と彼の顔に接近していることに初めて気付いた。慌てて、しかし極力音を立てないように距離を取る。と言っても同じベッドの上なのであまり変わらないのだが、そこは気持ちの問題だ。 ……危ない、寝起きのテンションで思わず襲ってしまうところだった。 いや、実際には危ないことなど何もないのだが。こんな気持ちになってしまうのは、安心しきって無垢な寝顔を見せてくれている彼に対して失礼だと思う。ここで負けてしまっては駄目だ。頑張れ自分負けるな自分。 ふと時計を見ると、いつもなら起きだす時間だった。……良かった。もう起きても大丈夫だ。 ベッドを降りて窓に歩み寄り、カーテンを開けて日の光を浴びる。ついでに窓も開け放ち、朝の空気を思いきり吸い込んだ。うん、気持ちいい。目を覚ますのにも効果的だ。 彼を振り返ると、カーテンを目一杯開けたにも関わらず、まだ心地よさそうに眠っている。可愛い寝顔はいいのだが、生憎と彼ももう起きなければいけない時間だ。 どうやって起こしてやろうか、と若干意地悪なことを考えつつ、私は彼の布団に手を掛けた。 * #
by fubuki-snow
| 2010-01-31 21:00
| SS
「ちょ、急にチャンネル変えんなよ! 返せリモコン!」 「いいじゃない5分だけ。ここだけは観せてよ!」 「どうせ録ってるんだから別にいいだろ!」 「あのねぇ、大晦日にリアルタイムで観ることに意味があるんじゃない!」 「それはこっちも同じだーっ!」 「うるさいよアンタらっ!! 観るんなら黙って観なさいよ!」 華とテレビのリモコンを取り合っていたら、リビングにいるはずの母さんに怒鳴られた。いきなり怒鳴られたもんだから、一瞬体が飛び上がる。 しばらく黙って様子を伺う。……怒鳴っただけ怒鳴ったらすっきりしたらしく、母さんの声はもう聞こえてこない。 ふう、と二人で息をついた所で、僕は華の手から素早くリモコンを奪いチャンネルを元に戻した。 「あっ」 「こっちは録画もしてないんだよ、いいだろ」 「……むう、仕方ないな。まあいいわ、蓮に譲るよ。あーあ、心の狭い弟を持ったもんだわー」 「一言余計だ!」 先程よりやや小声で怒鳴ったけれど、華の方はもうリモコン争奪戦にも飽きたのか、やる気なさそうに寝転がった。 足はコタツに入っているから、こたつむり状態だ。 「あー……。蓮、このまま年越す気?」 「え、うん。そのつもりだけど」 「つまんないね」 「つまんないのもたまにはいいんじゃないか? 特別じゃない時があったってさ。毎年毎年何かやるのも飽きるだろ」 「まーねー。たまにはいいか、まったりでも。来年はまた高等部で暴れるだろうけど」 「懲りないな……」 「楽しければいいんだよ。……よいしょ」 年寄り臭い掛け声と共に起き上がって、華はコタツの上の蜜柑を食べ始めた。 僕もつられて蜜柑を手に取る。 「……ねぇ、華」 「何?」 「今年、楽しかった?」 「それなりにね。蓮は?」 「うん、それなりに」 「来年はもっと楽しいといいなぁ」 「楽しくなるだろ、多分」 「ま、そうだね。前向きに」 中身があるんだかないんだかよく分からない会話をだらだらと続ける。 よくテンションが高いなどと言われる僕らだけれど、こんな空気も、たまにはいい。 「二人とも、蕎麦いらないのー?」 母さんの声がリビングから聞こえてきた。途端に華ががばっと立ち上がる。 「年越し蕎麦! 食べるー!」 「あ、僕も!」 僕も立ち上がる。我が家で年を越す時は、家族みんなで年越し蕎麦を食べるのが暗黙の了解だ。 友達と騒がしく過ごすのもいいけれど、家族と過ごす時間も悪くない。 楽しくなる来年まで、あと、もう少し。 * #
by fubuki-snow
| 2009-12-31 23:51
| SS
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